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最高裁判所第一小法廷 昭和46年(オ)440号 判決 1975年12月25日

主文

理由

上告代理人三森淳の上告理由について

所論の点に関する原審認定判断は、原判決挙示の証拠関係に照らし、正当として是認することができ、その過程に所論の違法はない。論旨は、ひつきょう、原審の専権に属する証拠の取捨判断、事実の認定を非難するものであつて、採用することができない。所論引用の判例は、いずれも事案を異にし、本件に適切でない。

附帯上告代理人松井康浩の上告理由一、三、四の(1)及び五について

所論の点に関する原審の認定判断は、原判決挙示の証拠関係及びその説示に照らし、いずれも正当として是認することができ、その過程に所論の違法はない。論旨は、ひつきよう、原審の専権に属する証拠の取捨判断、事実の認定を非難するものにすぎず、採用することができない。

同二について

株式会社に対しその取締役が無利息、無担保で金銭を貸し付ける行為は商法二六五条にいう取引にあたらず、取締役会の承認を要しないことは当裁判所の判例(昭和三七年(オ)第四三七号同三八年一二月六日第二小法廷判決・民集一七巻一二号一六六四頁)であるところ、原審の認定及びその説示に照らすと、上告人が昭和三三年一一月一〇日被上告会社に貸し付けた一〇〇万円については、無利息、無担保の約定であつたと解されるから、右貸金が有効であるとする原判決の結論は相当であつて、所論は、その結論に影響のない事実に基づいて原判決を非難するに帰する。また、被上告会社の債務引受の点については、原判決の適法に確定した事実関係のほか、右債務引受の当時、被上告会社の取締役は被上告入金児、上告人及び鈴木増太郎の三名であつたが、昭和三四年三月二三日上告人及び鈴木は取締役を辞任し、同年四月二四日金児元之助及び町田格が取締役に就任して、右金児が代表取締役となつたことが記録上うかがえることに徴すると、被上告人らが取締役会の承認の欠缺を理由としてその無効を主張することは信義誠実の原則に反するという原審の判断は、正当として是認することができる。原判決に所論の違法はなく、論旨は採用することができない。

同四の(2)について

上告人の本訴請求のうち所論の点に関する部分は、被上告会社に対し(イ)昭和三四年六月一一日二〇万円、(ロ)同年八月二〇日一八万八〇〇〇円をそれぞれ貸与したとして、(イ)の内金一二万二〇〇〇円及び(ロ)の一八万八〇〇〇円合計三一万円の支払を求める、というにあつたところ、上告人は、昭和四一年六月六日付準備書面をもつて、予備的請求として、上告人が(イ)昭和三四年六月一一日二〇万円、(ロ)同年八月二〇日一八万八〇〇〇円を被上告会社のために立替えたとして、(イ)の内金一二万二〇〇〇円及び(ロ)の一八万八〇〇〇円合計三一万円の支払を求める旨主張した。しかして、被上告会社が、右立替金債権については、おそくとも昭和三九年八月二〇日をもつて時効により消滅したと主張したところ、原審は、前記貸金債権と右立替金債権とは基本的事実関係が同一であり、上告人は昭和三八年六月六日本訴を提起することによつて右基本的事実関係を主張し権利行使の意思を明確にしてきたものというべきであるとし、右立替金債権についても時効中断の効力を生じたものと判断した。

しかしながら、本件貸金債権と本件立替金債権とは基本的事実関係が同一であつたといいうるにしても、右貸金請求訴訟と右立替金請求訴訟とは訴訟物を異にするばかりでなく、実質的にも全く別個の紛争であるというベく、右貸金請求訴訟の提起が右立替金債権につき時効中断事由とはなりえないものと解すベきであるからこの点につき時効中断の効力を認めた原審の判断は、民法一四七条の解釈を誤つた違法があり、その違法は判決に影響を及ぼすものといわなければならず、原判決中この点に関する部分は破棄を免れないところ、上告人は、予備的に、時効中断事由として、被上告会社が上告人に対し本件立替金債務を承認した旨を主張しているので、その点につき更に審理を尽くさせるために上告人の本訴請求中右立替金に関する部分を原審に差し戻すのが相当である。

(裁判長裁判官 岸 盛一 裁判官 藤林益三 裁判官 下田武三 裁判官 岸上康夫)

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